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10:ギャラリスト、三潴末雄さんの場合(ミズマアートギャラリー)

ミズマアートギャラリーは、1994年の設立以来、日本の現代アートシーンにおいて異彩を放ち続けてきた。会田誠や天明屋尚といった批評性と視覚的強度を兼ね備えた作家をいち早く紹介し、その表現の過激さや社会的挑発性に対する議論を巻き起こしながらも、同時にアートにおける自由と問いかけの可能性を広げてきた点において、その存在は単なるギャラリーの枠を超えている。東南アジア諸国における現代美術の可能性を見抜き、2008年にはシンガポールに拠点を設けるなど、国際展開にも先駆的な動きを見せたことは、日本のアート界における「内向き」な傾向に一石を投じる試みといえるだろう。確かに、その展示は時にエリート的で一般層には届きにくいとの指摘もあるが、それはむしろ、美術における言語性と社会的文脈の複雑さを正面から引き受けようとする姿勢の裏返しでもある。流通や収益にとどまらず、アーティストと観客、そして世界との媒介者として、ミズマアートギャラリーは現代における「ギャラリー」の可能性を問い続けている。

目次

三潴末雄さんの経歴

  • 生年・出身
    1946年1月7日、東京都西荻窪生まれ。評論家・三潴末松の四男。
  • 学歴
    東京都立杉並高等学校を経て、成城大学文芸学部卒業。
  • 学生時代
    学生運動に参加し、坂口安吾の息子(坂口綱男)の家庭教師も務めた。
  • 初期キャリア
    大学卒業後、ライブスペース「ステーション’70」の共同支配人となるが、閉店後は編集プロダクションで海外向けPR誌『Σ』の制作に携わり、美術の世界に接近。
  • 独立とギャラリー開設
    1976年に自らの会社「フロントオフィス」を設立。現代アートのコレクターとして活動し、1989年に西麻布で初の小画廊を開く。
  • ミヅマアートギャラリー設立
    1994年、東京・青山にミヅマアートギャラリーを開廊(現在は新宿区市谷田町)。
  • 国際展開
    2000年以降、海外のアートフェアへの参加を本格化。2008年に北京「Mizuma & One Gallery」、2012年にシンガポール「Mizuma Gallery」、2018年にはニューヨーク「Mizuma & Kips」を開廊し、アジアを中心に国際的な活動を展開。
  • 主な活動・特徴
    日本やアジアの現代アーティストの発掘・育成に尽力し、「ZIPANGU展」などの展覧会を積極的にキュレーション。著書に『アートにとって価値とは何か』(幻冬舎)、『MIZUMA 手の国の鬼才たち』(求龍堂)などがある。
  • 近年の動向
    現在もミヅマアートギャラリー代表として、国内外で精力的に現代アートの発信を続けている。

三潴末雄さんのアート観

東アジア的視点と「日本的なるもの」への問い直し
三潴末雄は、「日本的なるもの」とは何かを常に問い直し、日本独自の文化や美術の本質を、単なるナショナルな枠にとどめず、東アジア文化圏全体の中で捉え直すべきだと考えています。中国や韓国、タイの仏教美術などと比較し、「日本的」とされる表現も実は東アジア全体に共通する感性や歴史の中にあると指摘しています。

文化の「発酵」と独自性
日本の文化は、外来の要素を巧みに取り入れ、それを「自らの中で発酵させ、自らの形に作り変える」特性があると述べています。これは、単なる模倣や伝統の継承ではなく、異文化との「取り合わせ」を通じて新たな独自性を生み出す力であり、そのDNAが現代アートにも受け継がれていると強調しています。

西洋中心主義からの脱却と自国文化への自信
三潴は、日本人がいまだに欧米の美術や価値観に強いコンプレックスを持っている現状を批判しています。江戸時代から続く日本の美術の中に「世界最高峰の美術作品が生まれている」とし、日本人自身がその価値を見直し、自信を持って世界に発信すべきだと訴えています。

現代アートの評価と楽しみ方
現代アートは難解だという先入観を捨て、まずは実際に作品を見て、感じることを重視しています。知識や理屈よりも、作品そのものから受ける感動や驚きを大切にし、生活の中でアートを楽しむことを推奨しています。

ギャラリーの役割とアーティスト支援
欧米のギャラリーが作家の発掘・育成に積極的であることに学び、日本でもギャラリーがアーティストのサポーターとして機能し、作品を所有することで作家を支える文化を広げたいと考えています。


「日本というのは『取り合わせ』の得意な文化です。大陸や半島から様々な文化が日本に入ってきたけれど、それを日本の中で発酵させて、作り変えていったわけです。日本人はそういうDNAを持っているんですよ。」


三潴末雄の芸術観は、西洋中心の価値観に依存せず、東アジア的な広い視野と、日本文化の独自性・柔軟性を重視し、現代アートを身近に楽しみながら自国の価値を自信を持って世界に発信していく姿勢にあります。

三潴末雄さんの言葉

芸術家の言葉について
三潴末雄は、芸術家の言葉が私たちに響く理由について「肉体的・身体的な言葉だから、響く。ぼくたち『ふつうの人たち』に」と語っています。また、芸術家を「狂人であると同時に、天才なんです」と表現し、その存在や発する言葉の特異性と力強さを強調しています。

アートの評価軸について
アートのコレクションや評価については、「アートの蒐集は、その作品を自分の家に飾りたいかどうかを判断の軸とするべきだ」と述べています。人の評価や投資目的ではなく、自分自身が楽しめるかどうかを最優先にすべきだとし、「みんながいいと言っているからじゃなくて、自分が目で見て『これは!』と思う方へ進むのが第一です」と説いています。

西洋基準からの脱却とアジア的視点
「アートなんてルールがあるようでないんですよ。だからフェアじゃないんだな」と語り、欧米中心のアートの価値観やルールに対して懐疑的な立場を示しています。また、「日本的なるものっていうのはどこまで日本なのか。日本ではなく東アジア文化圏の表現という切り口で見ると、中国や韓国、タイでも仏教美術などを見ると、ほとんど同じですよ」と述べ、日本独自の価値観だけでなく、東アジア全体の文化的共通性を重視する姿勢を示しています。

まとめ
三潴末雄の言葉は、アートを「自分の目で楽しむこと」、西洋基準に頼らない独自の評価軸、そして東アジア的な文化共同体としての視点を大切にする姿勢が特徴です。

三潴末雄さんの主な著作

書名出版社内容・特徴
アートにとって価値とは何か幻冬舎アートの価値とは何か、日本の現代美術をいかに世界に認めさせるか、ミヅマギャラリーの闘いとアートマーケットの舞台裏を語る一冊。
MIZUMA 手の国の鬼才たち求龍堂ミヅマアートギャラリーが発掘・育成した現代アーティストたちの紹介と、ギャラリストとしての活動をまとめた書籍。
ジパング 平成を駆け抜けた現代アーティストたち「ZIPANGU展」などを通じて平成時代の現代アーティストを総括した内容。

これらの著作は、日本の現代アートの価値や国際的な位置づけ、アーティストとギャラリーの関係、そして三潴自身の美術観や活動哲学を知るうえで重要な資料となっています。

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