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09:ギャラリスト、小山登美夫さんの場合(小山登美夫ギャラリー)

小山登美夫ギャラリーは、日本の現代アートにおけるマーケットと制度の接点をつくり出した先駆的存在として、今日なお特異な輝きを放っている。1996年の設立以来、奈良美智、村上隆、杉戸洋、蜷川実花といった作家たちを早期に紹介し、いずれも国際的評価を獲得させた手腕は、単なるギャラリストという枠を超え、文化的編集者としての位置をも感じさせる。

とりわけ注目すべきは、その国際展開における確かな感度である。バーゼルやマイアミといった主要アートフェアへの継続的な参加は、日本の現代美術を一過性の「ムーブメント」ではなく、継続的な市場として構築しようとする意志の表れであろう。空間設計や展示構成にも一定のキュラトリアル意識が感じられ、ギャラリーという営為に「知」の領域を組み込もうとする姿勢は高く評価されている。

一方で、商業的成功が前面に出るがゆえに、市場原理に依存しすぎているのではないかという批判もある。かつてのようなリスクを取る実験性が薄れ、成熟と安定の裏側に停滞の影も見え隠れする。しかし、これは裏を返せば、日本においてコマーシャルギャラリーが一つの制度として定着したという証左でもある。

結局のところ、小山登美夫ギャラリーの存在は、現代アートにおける「価値」をいかに創出し、流通させ、定着させるかという問いに対する、日本的文脈における最も明確な回答の一つである。それは単に作品を売買する空間ではなく、アートの制度そのものを可視化し続けるプラットフォームであり続けている。

目次

小山登美夫さんの経歴

  • 1963年、東京生まれ。
  • 1987年、東京藝術大学芸術学科を卒業。
  • 西村画廊や白石コンテンポラリーアートなどで勤務した後、1996年に「小山登美夫ギャラリー」を開廊。
  • ギャラリー開廊当初から奈良美智や村上隆といった同世代の日本人アーティストとともに海外アートフェアへ積極的に参加し、日本の現代アート界を牽引。
  • 2016年にギャラリーは六本木へ移転、2023年には品川・天王洲にも新スペースをオープン。
  • 明治大学国際日本学部特任准教授(2018年まで)。
  • 主な著書に『現代アートビジネス』『この絵、いくら?』『何もしないプロデュース術』『見た,訊いた、買った古美術』などがある。
  • 日本現代美術商協会(CADAN)代表理事も務める。

小山登美夫さんのアート観

ジャンルを超えた自由な表現の重視

  • 小山は日本の美術界が「日本画」「洋画」「現代美術」といったジャンル分けに縛られていることを問題視し、ギャラリー開廊時からジャンルに囚われないキュレーションを実践してきた。
  • 村上隆や奈良美智のように、マンガやアニメ的要素を取り入れた表現も、海外のポップアートの文脈と比較しながら積極的に評価1
  • 「もっと自由な表現を求めていた」と語り、既存の枠組みにとらわれないアートの面白さを追求している。

作品の「強度」とアーティストの本質

  • 「アーティストのつくるものは作品であって、商品になるのは最後の瞬間」とし、まず作品としての強度がなければ良い商品にもならないと強調。
  • 作家の意図や表現を深く理解し、展示や発表の際にはその本質を伝えることがギャラリストの役割だと考えている。
  • 作品を「商品」として先に考えると本質的なアートにはならないと断言している。

アーティストの可能性と「生きた時間」

  • 自身が「面白い」と思う作家の可能性を見出し、展覧会などを通じてどう社会に着地させるかを常に考えている3
  • 年齢やキャリアに関係なく、アーティストが「生きた時間」を作品に昇華させることに魅力を感じている。高齢の作家の作品に新たな自由や意欲を見出すことも多いと語る。
  • 「時間を経て自由になる。さらに意欲的になる。その生きた時間を作品にできることがアートの魅力」と述べている。

まとめ

小山登美夫は、日本の現代アート界を牽引するギャラリストであり、ジャンルにとらわれない自由な表現、作品の本質的な強度、そしてアーティストの「生きた時間」の価値を重視する姿勢が一貫している人物です。彼の活動は、アートを単なる商品や投資対象としてではなく、社会や個人の表現として深く捉える視点に裏打ちされています

小山登美夫さんの主な言葉・発言

アーティストやアートに対する姿勢

  • 「アーティストに対する唯一の肯定的な表現は、『面白い』なんです。」
    → 小山は「売れるかどうか」ではなく、まず「面白い」と感じるかどうかを重視して作家を見ていると語っています。
  • 「アーティストのつくるものは作品であって、商品になるのは最後の瞬間です。先に作品としての強度を増さない限り、それは良い商品になりません。」
    → 作品の本質的な価値や強度を最重要視し、マーケットや商品性はその後にしか生まれないと考えていま。
  • 「重要なのは、コミュニティをつくることかもしれません。マーケットが主導になったことで、アートコミュニティが破壊的な状況にあります。」
    → 市場の拡大やシステム化によって失われつつあるアーティスト同士やギャラリーとのコミュニティの再構築が必要だと指摘しています。

アート市場やコレクターについて

  • 「今や近代の名画よりずっと高値で売買されている現代アートもあります。アメリカの富裕層の間では、資産の5%はアートに分散投資するという考え方が一般的ですが、日本でもやっと若い起業家など、現代アートに投資する人が増えてきました。」
    → アートの資産価値や投資対象としての側面についても冷静に分析しています1

アーティスト・ラン・スペースについて

  • 「どんどんやるべきだと思いますよ。アーティストが自分たちのコンプレックスをつくり、自分たちのイメージを見せていくことはとてもいいと思います。もちろん、それがおもしろいかどうかは別ですけどね。」
    → アーティスト自身が運営するスペースや自主的な活動を肯定的に評価しています。

アートフェアやギャラリーの変化について

  • 「いまのアートフェアは、作品という商品をすごいシステマティックに売る場所になっていて、出展料も高くなり続けている。アートフェアにおいても、コレクターが作品を購入する相手が、メガギャラリーを中心に固定化されてきています。当時と比べるとアートフェアの性格は変質していますね。」
    → アートフェアの商業化や市場構造の変化についても批判的に言及しています。

これらの発言から、小山登美夫は「面白さ」や「作品の強度」といった本質的価値を重視しつつ、アート市場やコミュニティの変化にも鋭い視点を持っていることがわかります。

小山登美夫さんの主な著書

  • 『現代アートビジネス』(アスキー新書/角川新書)
    ギャラリストとしての現代アートの仕事や、アートマーケットの仕組み、村上隆や奈良美智といった作家の立ち位置などをわかりやすく解説した一冊です。
  • 『その絵、いくら? 現代アートの相場がわかる』(セオリーBOOKS)
    現代アートの価格や相場、作品の価値の決まり方など、アートとお金の関係について具体的に解説しています。
  • 『“お金”から見る現代アート』(講談社+アルファ文庫)
    上記『その絵、いくら?』を文庫化・改題し、加筆・改訂したものです。
  • 『小山登美夫の何もしないプロデュース術』
    アーティストのプロデュースやギャラリー運営の哲学、現代アートとの向き合い方について語った著書です4

このほか、展覧会カタログやアーティスト関連書籍の監修・編集も多数手がけています。

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